子供が大人になるまでその写真はありますか?
DVDやハードディスクに写真があれば写真データは永遠に失われないと考えたことはないでしょうか?確かにデジタルデータは物質的な劣化もしないのですが、果たして劣化しないこととデータを喪失しないことはイコールでしょうか?今後10年、20年という単位で写真データを保管するための方法を色々と調べてみました。
そもそも記録メディアがいつまであるかわからない問題。
近年、ポピュラーな保存メディアはDVD、USBメモリー、ハードディスクやメモリーカードだと思います。しかしながら保存メディアには大きく3つの問題点があります。下記の図に示すようにデータは不変だとしてもその記録メディアである光学メディアであれば耐用年数が数10年しかありません。それより大きな問題はメディアの再生機としてのハードがいつまであるかわからないということです。少し前までは、フロッピーやMO、スマートメディアなどありましたがいまはメディアはあってもそれらからデータを読み出すハードがありません。最後に写真データの保存形式やそのデータを扱うソフトウェアがこの先いつまで残っているかということ。現在使用しているjpg,tiff,その他カメラメーカーが作っているrawデータの保存形式自体がこの先いつまでソフトウェアがサポートするかわからないのです。
出所:(社)電子情報技術産業協会 テープストレージ専門委員会 「コンピュータ用テープによるデジタルデータの長期保存」よりMRI において作成 http://home.jeita.or.jp/upload_file/20111221165535_MvQbSIymHi.pdf
またアメリカのBackblaze社の調査ではハードディスクのエラーが3年目以降10%を超える結果が出ています。いずれかのバックアップをとっていなかった場合、10台に1台がデータを失うことになります。
How long do disk drives last?
https://www.backblaze.com/blog/how-long-do-disk-drives-last/
写真データの保存に関してこのような幾つかの問題点を抱えています。 それでは写真データをどのように保管すればよいのか?
そこでこのような問題を回避するためにはどのようにしたらよいか総務省の「デジタルデータの長期保存・利用について」では次の二点が示されています。
“長期保存のための対策として
1、定期的なデータ移行(マイグレーション) 古いフォーマットや媒体を、それらを再生する機器がまだ存在する間に、新しいフォーマットや媒体に変換しておくことをマイグレーションいいう。
2,エミュレーション 古いフォーマットや媒体のままのオリジナルのデータを疑似的に再生できるようにすることです。マイグレーションするに当たりオリジナルのデータを再生できなくなってしまうような場合には、エミュレーションが必要となります。
総務省 「デジタルデータの長期保存・利用について」 http://www.soumu.go.jp/main_content/000225130.pdf
これらのことが推奨されています。 つまり常にデータの保存メディアの更新と保存ファイルの保存形式に常に注意を払い続けることが大事ということです。
ついに決定的な見解を見つけてしまいました。
そして国立国会図書館のサイトでついに決定的なQ&Aをみつけてしまいました。以下に引用しますが、そこには「個人レベルでデジタルカメラの画像を保存するための最良の方法は確立していないといえます。」という絶望的な見解がしめされています。
Q. デジタルカメラの画像を孫の代まで保存するにはどうしたらいいですか?
A. 画像をデジタルデータとして保存し、孫の代まで長期にわたって見ることを可能とするには、そのファイル形式が将来にわたって使用できることが必要です。現在、一般的なデジタルカメラの画像の保存形式は、規格化された標準的なファイル形式であるJPEGやTIFFに準拠しており、将来性は比較的有望であるといえるでしょう。ただし、いつ時代遅れのファイル形式になるともしれません。そのファイル形式が利用可能かどうか、将来にわたって注意し続ける必要があります。また、画像ファイルを記録する記録媒体の問題もあります。記録媒体が寿命により読めなくなってしまう前に画像ファイルを新しい記録媒体へコピーしなければなりません。また、時代が変わり記録媒体の規格が古くなってしまった場合はその都度新しい種類の記録媒体へコピーすることも必要でしょう。このように、デジタル画像の保存には継続したコストと手間がかかってしまいます。 他に考えられる方法として、デジタルカメラの画像を写真店等で銀塩写真用の印画紙にプリントして保管する方法があります。銀塩写真とは、フィルムに記録する旧来からのカメラ写真のことをさします。銀塩写真用の印画紙の寿命は、適切に保管すれば100~150年ともいわれています。また、適切な保管場所さえ確保できれば特別な措置が不要というのも利点です。ただ、この方法ではどうしても物理的な劣化はさけられません。 まだまだ、個人レベルでデジタルカメラの画像を保存するための最良の方法は確立していないといえます。
国立国会図書館「よくあるご質問:電子情報の保存」 http://www.ndl.go.jp/jp/help/preservation2.html
これは果たして昔の同時プリントをフィルム現像と一緒に出していたときに比べて写真の保存という観点からみたとき進歩しているといえるか疑問になってしまいます。 デジタルデータによる恩恵はもちろんたくさんありますがリスクも大きいということを自覚しながら付き合っていかなくてはならないということでしょう。プリントやアルバムも物理的な劣化は避けられないですが、意外と保存するという観点ではデジタルデータに比べれて容易であるといえます。
それでは個人でどのような写真の保存バックアップ方法があるのか?
写真を長期保存する観点で見たときに次のような選択肢があるかと思います。
- ローカルに保存する(外付けHDDやNASなど)
- クラウドに保存する(googleフォトやamazon drive)
- プリントやフォトブックとして「もの」として保存する
ローカルに保存する。
外付けにHDDやNASに保存するのがもっとも簡単ですが上記でも書いたようにHDDはいつかは壊れるという前提で保存しなければいけません。大容量のHDDも安価になってきていますし、転送速度も速いのです。
バックアップを更にバックアップするという観点から外付けハードディスクが2個入るケースがおすすめです。例えば下記のような製品が使いやすく値段もリーズナブルかと思います。
- 裸族の二世帯住宅 USB3.0&eSATA SATA6G (CRNS35EU3S6G)
http://www.century.co.jp/products/crns35eu3s6g.html - USB3.0/2.0 RAIDケース(HDD2台用) RS-EC32-U3RX/RS-EC32-U3RWSX
http://www.ratocsystems.com/products/subpage/rsec32u3rx.html
このようなケースに内蔵ハードディスクを別途購入して使うのが値段も安くおすすめです。
バックアップ方法は手動でも構わないのですが人間はミスを犯す生き物ですので、アプリケーションで自動化するのがよいと思います。
おすすめのソフトはChronoSyncです。
ChronoSync for mac
https://www.econtechnologies.com/chronosync/overview.html
webサイトは英語ですがソフトは日本語に対応しています。
差分バックアップや同期に対応しています。作業中のパソコンから外付けHDDにそこからさらにもう一つのHDDに同じ内容をバックアップするのに便利です。フォルダ単位で指定でき、スケジュールで同期もできる点も優れています。同期では元のフォルダから削除したファイルの扱いも指定出来ます。Timemachineも標準で利用できるのですが、復元するときOSのバージョンが違うと失敗することもあるのでこのような単純な仕組みの方が安全性は高いとおもいます。バックアップしたデータはwindowでも読み出すことが出来ます。
デジタルフォトアルバムという商品が最近あるのですが、導入の簡単さやスマホとの同期など非常に優れた製品ではあるのですが、長期的な保存という観点では、やはり商品の寿命と写真の寿命が同じになってしまうのは避けるほうがよいです。
クラウドに保存する
クラウドに保存するのはデータがデバイスに関係なく同期でき便利ですが、クラウドを運営している会社の都合により料金や容量などがいつまで契約当時と同じかわからない点が不安点としてあります。先日も米国版amazon driveの容量無制限が廃止されたばかりです。反面災害や物理的な破壊に強いのでローカルのバックアップよりも優れている点もあります。
「人類最後の希望」Amazon Drive無制限プランが米国で終了。日本版はどうなる?
http://japanese.engadget.com/2017/06/13/amazon-drive/
またなるべく大きな会社でこの先なくなってしまうことがないだろうと思われるサービスを使うのがよいと思います。現状ですとAmazonかgoogleのサービスが安定性と料金の面でおすすめです。
「googleフォト」は写真のサイズを「高画質」に設定すれば容量無制限で無料で保存できます。しかしながら写真データは縮小されてしまいます。
元の大きなデータを保存するとgoogleドライブの容量を使いますので、15GB以上は月額で料金が発生します。100GBで月250円、1TBで月1300円に現在はなっています。検索機能などは非常に優れています。
「Amazonプライムフォト」は画像ファイルであれば画像ファイルならば容量無制限・無圧縮で保存可能。しかも高解像のRAWデータも保存できます。こちらもスマホのアプリもありますし使い勝手非常に良いとお思いますが、Amazonプライム会員になる必要があります。しかしながら長期的写真の保存を考えた場合このままプライム会員の料金が据え置きとは限りません。アメリカではプライム会員の料金が徐々に値上げされ現在99ドルになっています。写真の保存以外にも特典があるので一概には比較できないのですが。
なぜAmazonプライムは約2000円もの値上げができるのか?
http://gigazine.net/news/20140317-amazon-prime-raise/
「Amazon glacier」という非常に安く(1 か月あたり 0.004 USD/GB)、信頼性も99.999999999%というサービスも有るのですが、データの取り出しスピードによって課金するという他にはない課金体系ですので運用は慎重にしないといけないのでamazon S3などを使った経験がある方向けになります。料金が復元に関しては定額ではないのでよくわからない方は手を出さない方がよいでしょう。
このようにクラウドのサービスは非常に便利なのですが写真を保存する環境をサービス提供側に委ねてしまうので、長期的な視点では不安要素がないとは言えません。よってローカルのバックアップもしつつクラウドを利用するのが良いと思います。
プリントやフォトブックとしてものとして保存する
昔からある方法なので一番信頼性は高いかと思います。インクジェットプリントは顔料系のインクの方がより色あせには強いと言われていますが、まだできて新しい技術ですので実際どのくらい持つか未知数な部分はあります。従来の印画紙のプリントは十分実績があるのでより信頼性が高いといえます。デジタルデータから印画紙に出力できるプリンターは値段も安く高品質でプリントできるノーリツの「QSS」などを使っている業者などを選ぶのが一つの基準になります。さらに厳密な色調整などができるプリンターに「ラムダ」や「ライトジェット」などがあるのですが、大きなサイズのプリント向きなのと価格が非常に高額なので展覧会などをするのでなければオーバースペックです。
このようにいつかの方法が写真の長期保存にはありますが、どれかひとつだけでなくいくつか組み合わせて運用していくのが良いと思います。お子さんの結婚式に子供のころの写真がないという事態はなんとか避けたいですね。
参考までに若松写真館では写真のデータ運用。
若松写真館では大量の写真データを業務上扱わなければならないので下記のような形で管理しています。なかなか決定的な方法が見つからないので常に試行錯誤はしています。
大体上記のような形で今は運用しています。
コメントを残す